東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 細胞生理学分野 竹田研究室

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研究紹介

骨代謝は骨形成を担う骨芽細胞、骨吸収を担う破骨細胞および骨芽細胞に由来する骨細胞により厳密に調節されています。この骨代謝のバランスが崩れることにより、骨粗鬆症をはじめとした数多くの骨代謝異常症が発症します。近年の高齢化社会の進展に伴い、高齢者の生活の質の向上と維持の面からも骨代謝異常症に代表される運動機器疾患の制御と克服が社会的にも求められています。しかし、現在の骨疾患治療薬の標的は骨芽細胞や破骨細胞など、骨に限定されています。そこで、当研究室では、新たな骨代謝調節機構を明らかにすることで、骨代謝異常症の病態の理解及び新規治療薬や治療法の開発を目指しています。
当研究室では3つの研究テーマを中心に研究を行っています。

1.骨を中心とした臓器間ネットワークの解明

骨では、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が常に繰り返されており(骨のリモデリング)、両者のバランスが保たれることにより骨量は一定に維持されています。このバランスが崩れることにより、骨粗鬆症をはじめとした数多くの骨代謝異常症が発症します。我が国において骨粗鬆症の患者数は1,300万人余りに至りますが、その病態には不明な点が多く残されています。我々は世界に先駆けて脂肪由来ホルモンであるレプチンと交感神経系による骨代謝調節機構を提唱してきました(Takeda S, Cell, 2002、Nature, 2005)。さらに、食欲抑制ペプチドの一種であるニューロメジンUが脳に作用して骨形成を抑制することを見出しました(Sato S, Nat Med, 2007)。これら一連の報告は、「神経系による骨代謝調節機構」として注目されています。また最近では、骨はFGF23やオステオカルシンなどの液性因子を分泌し、腎臓や膵臓の代謝を調節することが示されました。このように、骨と骨外臓器は独立して代謝を営んでいるわけでなく、ネットワークを形成し、互いの代謝を調節していることが明らかとなってきました。そこで、この概念をさらに発展させ、骨以外の臓器による骨代謝調節機構、また骨からの脳への情報伝達機構を、種々の遺伝子改変マウスを用いて、分子生化学的、組織学的、細胞生物学的な手法を駆使し検討します。これらの検討により、骨を中心としたネットワーク医学の包括的な理解を目指しています。

2.感覚神経を介した骨代謝調節機構の解明

骨代謝は、ホルモンなどにより調節されていることが知られています。また最近では、神経によっても骨代謝が調節されていることが報告されています。しかし、そのメカニズムについては、未解明な部分が多く残されています。我々は、骨内の感覚神経が骨量の維持に重要な働きをしていること、そして健康な骨の発達や骨の治癒には骨への感覚神経の侵入が重要であることを解明しました(Fukuda T, Nature, 2013)。今後は、この成果を基にした新しい骨粗鬆症治療薬の開発が期待されています。

3.マイクロRNAによる骨代謝調節機構

近年、タンパク質にならない非コードRNAが注目されています。なかでもマイクロRNAは生物の多様性に関係し、またマイクロRNAの変異で、ある種の遺伝性疾患が発症するなど、その生理的、病態生理的意義は極めて大きいと考えられています。我々は骨組織におけるマイクロRNAの生理的意義の解明を目指しています(Inose H, PNAS, 2009)。現在、骨に特異的に存在するマイクロRNAの同定とその機能の解析を行っています。